髙木 友ニ

ケアマネジャー兼小説家です

権力との闘い

 

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私の名前は織田和真。43歳。会社をいくつか経営している。つまり社長。

 

私の会社は始めこそ経営が苦しかったが、今は増収、増益。

 

周りの社長からも一目置かれる人間だ

 

大学はもちろん赤門。赤門の大学以外は大学ではない。

 

車はレクサス。キャッシュで買った。

 

金には最近困ったことがない

 

結婚して、子供も2人いる。妻は会社一の美人。家に帰ればいい夫、いい父親を演じてはいるが、愛人が3人いる。

 

愛人はもちろん、性の対象としかみていない。つまり遊び。

 

 

2人は会社でも1、2を争う美人。もう一人は銀座のホステスだ。

 

 

社長の上、顔もかっこいいから、女にはもてる。向こうから言い寄ってくる。仕方なく付き合ってやっている。そんな感じだ。

 

俺には弱点などない。

 

今日も分単位で仕事をこなしていく。

 

時計はロレックス。着ているスーツは、ドルチェアンドガッパーナ。靴はサントーニを履いている。車もそうだが、俺は一流の物しか買わないようにしている。

 

なぜなら俺は一流の人間だからだ。

 

一流の人間は、一流の物しか身につけない。常識的な考え方だ。

 

今日も朝から会議がある。愛車のレクサスを運転しながら、会場に向かう。

 

一流の人間は時間にルーズであってはならない。私は遅刻することが大嫌いだし、遅刻する人間は付き合いたくない。

 

だから、誰よりも会議場につくことをモットーとしている。

 

車を運転している途中、

 

「ピーーー!!」

 

突然大きな笛の音がなったかと思った瞬間、突然人が飛び出してきた。

 

慌ててブレーキを踏み、車を止める。

 

急に飛び出してきた人間は、どうやら警察官らしい。

 

なんのようだ?シートベルトは着けているし、スピードも出していないはず。

 

織田が車を止めると。前に出てきた警察官がゆっくり織田の車に近づいてきた。

 

窓を開けると、警察官は織田に向かい

 

「運転手さん、前の交差点で、一時停止してないね」

 

一時停止していない。ルームミラーで後ろを確認した。確かに一時停止の標識があった。

織田はそれを確認し、一時停止をして、左右を確かめて車を前に出したはず。

 

「いや、一時停止しましたよ」

 

織田か反論すると

 

「いや、運転手さん。確かに一時停止しているんだけど、停止線を越えてから止まったよね。それだと違反になっちゃうんだよ」

 

「は?停止線の前で止まってますけど」

 

「いや、ちゃんとこちらも確認して声をかけているわけだから間違いないよ」

 

ここの交差点の停止線は、少し手前に引いてあり、そこで止まったとしても、左右が安全か確認が難しい。

 

だから停止線を少しだけ越えていたのかもしれない

 

多分警察は、そこを熟知していて、一時停止した車でも、少しでも停止線から出ていたら、根こそぎ捕まえるため、ここでネズミ取りをやっていたのだろう。

 

 

ここで止まった、止まらないの水掛け論をしていても仕方がない。

 

織田は諦めて、渡された書類にサインをした。

 

サインをしている最中も、次々に他の車も捕まっていく

 

きたねえなぁ

 

そう言いたいが相手は警察。喉まででかかった言葉を飲み込んだ。

 

「運転手さん、2点の減点と、反則金7千円、銀行に振り込んでください」

 

「わかりましたよ」

 

そう言って車を出した。

 

一時停止違反の対応をしていたため、結局会議には、5分ほど遅刻してしまった。

 

会議が終わると、一人の社員が話しかけてきた

 

「社長、今日は珍しく遅刻しましたね。何かあったんですか?」

 

「実は近くの交差点で、一時停止違反で警察に捕まってね。それで遅くなったんだ。悪かった」

 

「社長が捕まった交差点って、この先にある交差点ですか?」

 

「そうだよ」

 

「やっぱり、災難でしたね。あそこはよく警察が張っていて、みんな捕まりますよ」

 

その社員によると、私の思った通り、停止線が手前に引いてあるため、そこで止まらず、少しだけ進んだところで止まり、左右を確認する車が多い。

 

それを警察がどんどん取り締まっているという。

 

「じやあ、あそこの交差点で捕まらないようにするには、どうしたらいいんだ?」

 

「まず、停止線の前で3秒とまります。その後ゆっくり車を出しながら、左右を確認して、道を渡るんですよ」

 

「そんな馬鹿な話があるか!」

 

「警察も必死なんですよ。反則金が入ると見込んで一年の予算を立てていますから。ノルマみたいのはあるんじゃないですか?」

 

その話を聞いて、また気分が悪くなった。

 

予定を変更し、愛人のホステスのところに向かった。

 

行為はイライラのためか、相手も困惑するほど荒っぽかった。

 

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織田は、首都高を走っていた。もちろん会議があるためだ、しかし、運転している織田の表情は固く、額からは汗がにじんでいる。

 

「いったいここはどこなんだ?」

 

首都高の中で迷子になっていた

 

自分には弱点はない、そういったが、方向音痴ということが、織田和真にとって唯一の弱点だった

 

すごいスピードで走りながら、行く先を瞬時に判断しなければならない

 

京橋から首都高に乗り、横浜を目指すはずだったが、同じようなところをぐるぐる回っているだけで、全く横浜に向かっている気がしない

 

首都高を走り始めて1時間が経過している。東京を出てもいい時間なのに・・・

 

前を凝視しながら運転していると、信じられない標識が織田の目に飛び込んできた

 

浦安まであと30キロメートル

 

さすがに慌てる。このままでは千葉にいってしまう。全くの逆方向だ

 

仕方なく、葛西インターで、一旦首都高を降り、逆に進むことにした

 

降りてすぐの交差点で、Uターンをし、また高速に乗ろうとした瞬間

 

「ウ~ウ~」

 

すぐ後ろで音がした。ルームミラーを見ると白バイがすぐ後ろについている

 

なんだろう・・・

 

そう思いながら、車を道の脇に寄せた

 

白バイ隊員は、織田の車に近寄ると

 

「運転手さん、あそこの交差点ね、Uターン禁止なの。標識見えなかった?」

 

そう聞いてきた。

 

こんなところ初めてなので、そんなことわかるはずはないか、後ろを見ると、確かにUターン禁止の標識がある

 

「2点減点と、7千円の反則金

 

織田が書類を書いているときに、白バイ隊員は言った

 

納得がいかない。

 

多分自分のような首都高を走りなれていないドライバーが、間違えて千葉方面に行ってしまうことに焦り、ここのインターで一旦降りて、この交差点でUターンする人が多いのだろう

 

それがわかっているため、この白バイ隊員は張っていたのだ

 

迷路のような首都高。こうやってUターンするドライバーも多いだろう

 

もはや入れ食い状態

 

自分が悪いのは十分納得しているが、なぜか腹が立つ

 

「運転手さん、安全運転で」

 

そう言われたが、織田は無視して車を発進させた

 

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ある日、織田は額に大汗をかけながら車を走らせていた。苦悶の表情で、歯を食い縛っている

 

自分の弱点は方向音痴しかない、そう以前言ったが、お腹が弱いというのも弱点のひとつだった

 

ほんの数分前までは、全く普通に運転していたが、突然の腹痛に襲われ、いつ漏らしてしまってもおかしくない

 

そんな緊急事態に襲われていた

 

そういうときに限って、通過する信号には必ず引っ掛かり、額の脂汗もポタポタとたれている

 

これから大事な会議だ。絶対漏らすわけにはいかない

 

気持ちは焦るが、前の車は全く進まない

 

下の圧力も増してきている

 

もはや万事休す・・・

 

「仕方がない」

 

織田は左に曲がった。裏道を進む

 

こういう時のために、織田の赤門出身の頭脳には、コンビニや公衆トイレなどの場所が、叩き込まれている

 

この道を真っ直ぐ進めば、少し先にコンビニがある

 

そこまでの我慢だ

 

そう言い聞かせ、アクセルを強く踏む

 

もう残された時間は数分もない。早く行かなければ

 

 

「ピーーーー」

 

その時、大きな笛の音が聞こえた。そして数メートル前に警察官が現れ、車を寄せるように右手に持った棒を横に振る

 

しまった

 

あまりの下痢の激しさにスピードを出しすぎていた

 

警察官が近寄ってくる

 

「おまわりさん、違うんだ。お腹の調子が悪くて、スピードを出さないと間に合わない」

 

今の織田には恥も外聞もない。とにかく43歳なのに、ウンコを漏らすわけにはいかない

 

「ハイハイ、そう言って言い逃れする人、結構いるんだよね」

 

必死に訴えているにも関わらす、警察官は無表情。全く織田の話を聞こうとしない

 

税金で飯食っているのに、何て態度だ!

 

「本当なんだ、今この瞬間出ても不思議じゃない!!トイレだけ行かせてくれ!!」

 

織田は必死に懇願した。

 

「ハイハイ、免許証みせて」

 

その状態でも警察官は全く異に介さず、話を進めようとする

 

「25キロ超過、反則金は1万五千円」

 

「ちょっと、こっちの話も聞いてくださいよ!!」

 

そう、大声を出した瞬間、織田のお尻から何かが少し出た感覚がした

 

もう・・・だめだ

 

「おまわりさん、パトカーの中で書類書いてもいいかな?」

 

「なんで?」

 

「車を、人にみられるのが困るんだ。けっこう目立つし」

 

「そうか、じゃあこちらに来なさい」

 

警察官の誘導のもと、織田はパトカーの後部座席に乗り込んだ

 

そして、ゆっくりベルトを外し、ズボンを下ろす

 

「ぶりぶりぶりぶり~~」

 

不快な音が後部座席に響き渡った

 

「貴様、パトカーの中でなんてことを!!」

 

彼の権力との闘いは続く